中山恒夫『標準ラテン文法』のセクション44「形容詞の比較」に、原級・比較級・最上級の変化が不規則な形容詞の例として bonus 「よい」が出てきた。
- 原級 bonus
- 比較級 melior
- 最上級 optimus
補充法まる出し、みたいななりをしている(裏をとってはいないけれど)。
この3つの語形は、それぞれ異なる意味で英語に借りられている…とラテン語の講義で教わった。おもしろいので裏をとっておく。
原級 bonus → 英語 bonus
原級 bonus は見てのとおり、英語 bonus 「賞与」になった。KDEE こと英語語源辞典を引くと初出は1773年。続けて意味深なことが書いてあった。
◇ 本来の L bonum good thing の代わりに戯言的に用いたものか.
いわれてみれば。賞与は人でなくものなのだから、それを指して「よいもの」というなら男性 bonus よりも中性 bonum が借用されるほうが自然だったということか。「戯言的」というのは、男性 bonus を使うことで何か擬人化したようなニュアンスが出たりするのか?
比較級 melior → 英語 ameliorate
ラテン語 bonus の比較級 melior は、「賞与」とは一見関係なさそうな英語 ameliorate (改善する)の語源となった…と講義では習ったのだけれど、 KDEE を引くとなんだか複雑なことが書いてあった。まず ameliorate の項には次のようにある。
(変形)↼ MELIORATE
じゃあ接頭辞 a- のない meliorate というのが先にあったのか、と meliorate も KDEE で引いてみる。ameliorate の初出が1767年に対して、 meliorate は1552年以前とあるのでやはりこちらが先。そして、ラテン語の時点ですでに形容詞の比較級 melior から動詞 meliōrāre 「改善する」が派生していたようだ。さらに meliorate の項にはこんなことも書いてある。
◇ または melioration からの逆成か.
KDEE にある初出年代の順に並べると、以下のとおり。
- melioration 1400以前
- meliorate 1552以前
- amelioration 1659
- ameliorate 1767
これだけ見ると、名詞がラテン語から英語に入り英語の中で動詞形がふたたび生まれたという逆成説をとったほうがむしろ自然なんじゃないかと感じる。そうしていないのはなぜなんだろうか。気になるけれど、わからない。
最上級 optimus → 英語 optimism / optimize
英語 optimism 「楽観主義」の初出は1759年で、フランス語 optimisme を経由している。そのあとラテン語から直接借りる形で生じた optimize 「楽観する」の初出は1844年。「最大限活用する」などの語義はもう少しあとで1857年初出とのこと。