ところでラテン語 sēcūrus は、名詞 cūra 「心配、看護」に接頭辞 sē- 「ない」がついたものであり、つまり「心配がない」の意味である。この元の名詞 cūra を医学用語として16世紀に借用したものが die Kur 「療法」である。以前言及した bio- と似て、自然療法大好きなドイツ文化ではこの Kur もよく見かける。日本語でカタカナ語「クアハウス」になった das Kurhaus もそう。Duden 語源辞典はいくつかの複合語の初出年代を書いてくれている:
Pferdekur: 荒療治(17世紀)
Kurgast: 療養・湯治の客(18世紀)
Hungerkur: 断食療法(18世紀)
Kurpfuscher: 無免許医、やぶ医者(18-19世紀)
Kurort: 温泉保養地(19世紀)
ちなみに察しのつくとおり、ラテン語 cūra は古フランス語を経由して英語 cure 「癒す」になった。KDEE によれば初出は14世紀とのことで、ドイツ語 Kur より早い。
HEE の記述に戻る。動詞のほうの英語 save の語源となったラテン語 salvus は、挨拶 salve 「健やかであれ→こんにちは」に派生した。ここから英語では salute 「挨拶する」や salutation 「挨拶」の語が生じることとなる。軍隊において空砲を放って敬意を示す「礼砲」を英語では Gun salute などと呼ぶが、ドイツ語では当初ずばり die Salve といった。16世紀にフランスから借用した語で、現代では空砲・礼式に限らず一般の「一斉射撃」を Salve と呼ぶようになった。挨拶がてら一斉砲撃とはドイツの軍隊は容赦がない。現代では、とくに「礼砲」のことを指す場合は der Salut と呼ぶようだ。eine Salve von Gelächter 「笑いの Salve」すなわち一斉射撃のごとく笑い声がどっとあがるという比喩もみられる。
「無線、ラジオ」の意味の radio は、1898年に最初の記録がある radiotelegraphy (無線電信)の後半部分が略されたものに由来。語源はラテン語radius (光線、光)で、これに基づく連結形 radio- (無線、電波)に由来。[...]「無線」を表す radio は1907年に最初の記録がある。一方、放送としての「ラジオ」の意味で使われた例は1920年が最初のものである。
これと並行して、ドイツの無線技術者ハンス・ブレドウが der Rundfunk を造語した。ドイツ語版 Wikipedia は1919年、Duden 語源辞典は1923年のことだとしている。のち1924年には、ヴァイマル共和制ドイツの郵政省が放送事業の名称としてこの Rundfunk を正式に採用した。以来ドイツでは、 Radio / Rundfunk の両方が「ラジオ放送」を指す語として用いられる。また後者は、のちのテレビ時代にひろく「放送局」を指す語としても用いられるようになった。