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勉強したることども

『英語語源ハンドブック』にこじつけて学ぶドイツ語 #17 question

www.kenkyusha.co.jp

HEE こと『英語語源ハンドブック』にこじつけてドイツ語の語源その他について書くシリーズ。

前:#16 page

第17回は question から。

中英語期に借用された「問題、探究」などを意味するフランス語 questioun、ラテン語 questio に由来する。

英語 question はドイツ語で die Frage という。これゲルマン本来語ですよね、と予断を持ちつつ Duden 語源辞典を引く。

Das auf das deutsche und niederländische Sprachgebiet beschränkte Substantiv mittelhochdeutsch vrāge, althochdeutsch frāga, niederländisch vraag gehört mit dem im Deutschen untergegangenen starken Verb gotisch fraíhnan »fragen«, altenglisch frignan »fragen, erfahren«, altisländisch fregna »fragen, erfahren« zu der indogermanischen Wurzel *p(e)rek̑- »fragen, bitten«.

ゲルマン本来語には違いないが、やや入り組んだことが書かれている。ゲルマン祖語の段階で「尋ねる」を意味する強変化動詞があり、その名詞形がいまの Frage まで残った。ところが、派生元の強変化動詞は早くに廃れたのだという。そうすると、現代の弱変化動詞 fragen 「尋ねる」は Frage から改めて派生したか、元の強変化動詞が弱変化になったかしたのだろう(どっち?)。

なお、同根の古英語 frignan は現代の標準英語には生き残らなかったが、イングランド北部方言やスコットランド英語の frain 「尋ねる」として存続していると ChatGPT は言っていた。

さらに、Frage のもととなった印欧語根 *prek- 「尋ねる、頼む」を AHDIER こと The American Heritage Dictionary of Indo-European Roots で引くと、英語ではラテン語やフランス語を経由した prayer, deprecate などがここから出ているという。ドイツ語 fragen は英語 pray だったわけだ。

ところでいま辞書を引いて改めて思ったんですけど、英語 deprecate の語義に「廃止する」って入ってないんですね…。仕事ではもっぱら以下の意味でばかり使うので、はっとしてしまった。

eow.alc.co.jp

deprecated

形《コ》〔仕様などが〕廃止される可能性がある、廃止予定の、将来のサポートが保証されない(ので使用すべきでない)、非推奨の◆仕様が改定されたが、後方互換のために以前の方式も当面使えるようにしてある場合など

ところで Duden 語源辞典の記述には続きがあって、Furche 「畝間、溝、しわ、轍」も参照せよという。その前に畝間(うねま)という語になじみがない。先に「畝」の話をしてくれないか。調べた限りでは、「畝」はドイツ語で der Grat とか der First というようだ。

そんなわけで、der Grat ないし der First の間の低くなったところを die Furche と呼ぶことに納得したので安心してDuden 語源辞典を引く。

Das gemeingermanische Wort mittelhochdeutsch vurch, althochdeutsch fur(u)h, niederländisch voor, englisch furrow, schwedisch fåra gehört zu der indogermanischen Wurzel * per(e)k̑- »wühlen, aufreißen«. [...] Die Bedeutung der indogermanischen Wurzel hat sich über »herumwühlen« weiterentwickelt zu »suchen, ausforschen, fragen, bitten«.

  • wühlen: 掘る
  • aufreißen: (封などを)破る、(道路などを)掘り起こす

ドイツ語 Furche は印欧語根 *perk- 「掘る、破る」にさかのぼる。この語根から「掘る」→「深掘りする」→「調べる」のような意味変化を経て、 Frage のもととなった印欧語根 *prek- 「尋ねる、頼む」が派生したようだ。そんな遠いつながりに言及してくれるとは親切。

この「掘る」の意味の *perk- からは、ドイツ語 forschen 「研究する、(学術的に)調査する」が出ている。fragen と forshen には遠い関係があった。研究することは問いを立てることと見つけたり。

さらにさらに、 *perk- と関連する印欧語根として *porko- 「豚」についても言及されている。「土を掘る動物」ということでの派生なんだろうか。これは英語では farrow 「豚の同腹の子」となり、ドイツ語では das Ferkel 「子豚」となった。なお、ドイツ語で一般の「豚」をいう das Schwein (英語 swine)は別語源。

同じ印欧語根 *porko- から出たラテン語 porcus 「豚」は、イタリア語にかけて「豚」→「貝殻」→「磁器」と派生した。これを借用したものが、英語 porcelain でありドイツ語 das Porzellan である。

この意味変化、「貝殻」と「磁器」は光沢が似ていることからだろうとある程度納得しつつ、「豚」と「貝殻」の関連はよくわからない。KDEE こと英語語源辞典は「その形と色合いが雌豚の vulva に似ているところから」と説明している。Duden 語源辞典のほうでは同様の説明をしつつ、 "nicht sicher geklärt" 「明らかにはされていない」とか "vielleicht" 「おそらく」とだいぶぼやかしている。そういう名前で呼ばれる種類の貝が中世のイタリアにあったのかもしれないし、そうでもなかったのかもしれない。

今回は英語でもドイツ語でもなく印欧祖語までさかのぼって *prek-, *perk-, *porko- と、語源的に関連するらしい語根を並べて追いかける展開となった。Duden がこんなに印欧語根の相互参照をさせるとは知らなかった。最後に英語 question の話に戻ると、語源的に同根の語はドイツ語には見当たらないようだった。HEE は question と同語源の英単語をいくつか挙げているが、意味的に対応するドイツ語はいずれも question と語源的につながらないゲルマン本来語である。

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