表題のイベントを現地観覧しました。本屋 B&B を訪れるのはたしか2020年代に入って初めて…と思って確認したところ、前回訪問は三宅陽一郎×遠矢司 「ゲームをつくること、未来をつくること」 『FINAL FANTASY XV の人工知能 – ゲームAIから見える未来 -』刊行記念 – 本屋 B&Bだったようでした。つまり、移転した現店舗には初めての訪問。
ドイツ語の心態詞の話
- 綿谷さんの『おしゃべりなドイツ語』ではドイツ語の心態詞がしっかり説明されている
- 例えばドイツで "Darf ich die Toilette benutzen?" 「トイレお借りしてもよろしいですか」と尋ねると、 "Nein, du doch nicht!" と心態詞 doch を伴う形で返されることがある。これは文字通りには「絶対にだめ」と強く断る表現だが、実際には「トイレを貸さないわけがないでしょう、聞くまでもない」というドイツ流のジョーク。ドイツ人はこういうことを真顔で言うので、日本人はしばしば誤解する。要注意
- ドイツはマゾヒズムの国なのか?相手の困った顔を見て喜ぶのが、愛情の裏返しらしい
心態詞とは…ドイツ語特有の表現「心態詞」をマスターして、生きたドイツ語を話そう! | ドイツ語学習スクール「Vollmond (フォルモント)」の公式サイト
心態詞(ドイツ語では Modalpartikeln と言います)とは、他言語に翻訳するのは少し難しいと言われている、ドイツ語特有の表現です。
この心態詞を使うことによって、状況の情報をより詳しく、感情をより具体的に表現することができるようになります。
この心態詞の取り扱いには、例にもれずドイツ語学習者の自分も悩まされています。比較的よく困るのは ja とか doch とか、たまに困るのは eigentlich とか einfach とか。これって何のためにあるのか、飛ばして読んではだめなのかと何度思ったことか。
特に doch については以下のような話も読んだことがあり、ドイツ文学の先生が辞書で doch を8億回引くなら自分はいったい…という気がしています。
原文講読系の授業の初回でドイツ語の習熟度を自己申告してもらうと「 "まだ" 辞書を引かないと読めません」とおっしゃる人が多いので、どうやら辞書を引くこと自体に後ろめたいイメージがあるようなのだが、外国語を読む限り辞書は永遠に引き続けることになる。dochとか8億回くらい調べてる。
— 金志成 (@jisungki) 2022年4月16日
そんなこんなで我が国のドイツ語参考書において心態詞はだいたい中級以上のトピックとして扱われ、ビギナー向けの本では言及されないことも多い中、心態詞に果敢にクローズアップする綿谷さんの『おしゃべりなドイツ語』はなかなか攻めた本だなあ、と思うのでした。
そういえば、トイレを借りたいとき "Nein, du doch nicht!" といわれたらどう返すのが正解なんだろう。わかっていても真に受けて困ってあげるべきなのか、それとも Vielen Dank とかお礼を言って粛々とトイレに入ればいいのか。質問すればよかった。
ドイツの「州民性」
- 綿谷さんの生まれ育ったデュッセルドルフはラインラント人の国。ドイツ人の間では、ラインラント人は「見ればわかる」らしい
- 一方ベルリンではみんな親称 du 「きみ」で話しかけてくる
- ベルリンの大学は教授と学生の距離もやや近く、学生は教授の名前に Herr 「~さん」だけをつけて呼ぶのが通例。しかしミュンヘンなどでは Herr Professor Doktor をつけないといけない
- ミュンヘンはじめバイエルン地域の人々は、ベルリンを『北斗の拳』のような荒廃した危険な世界だと思っている。一方ベルリン人はバイエルンのことを、鼻持ちならない金持ちの国だと思っている
- 伸井さんの提唱する「ヤバいエルン」。経済的に豊かなバイエルンの人々は、金に飽かしてわけのわからないものをつくり維持し続けている。日本人の感覚からするとシュールな造形物が街に多い
- ドイツ人はリアルなものに対するリスペクトを持っている。絵本にもリアリズムを求めており、たとえば人の手には必ず指を5本描かないといけない。あるいは、歯医者の看板に「出血する歯茎」が描かれているなど
- 伸井さんの提唱する「ヤバいエルン」。経済的に豊かなバイエルンの人々は、金に飽かしてわけのわからないものをつくり維持し続けている。日本人の感覚からするとシュールな造形物が街に多い
- ベルリン人は早口。ラインラント人は歌うような抑揚で話す
- 伸井さんの提唱する「がっかりStadt」
- フランクフルト(特に駅周辺)
- マクデブルク(ドイツの州都で唯一『地球の歩き方』から除外されたという)
ドイツ語の生のテキストを読むようなとき、こういった話が背景というか暗黙の前提とされていて、知らないと「何の話だかわからない」となりがち。かつこういう話を効率的に集める方法もまた「ドイツ語の生のテキストを読む」しかなかったりするので、今回のような話が日本語で聴けるのはありがたいことだと思ったのでした。
東ドイツの話 ノスタルギーとヴェスタルギー
- 東ドイツは存続していた期間中人口が流出した残念な国。「労働者と農民の国」というスローガンも建前
- 一方で東ドイツはキャラクターがかわいい!
- たとえばテレビアニメのザントメンヒェン(「砂の小人」)。西ドイツもパクったが、リアル志向でかわいくない
- 東ドイツは西ドイツと比べて女性が強いイメージ
- 最近、ドイツはエルベ川をはさんで東西に分かれていたほうがむしろ自然だったとの学説が出た。西側はフランク王国、東側はスラヴ圏
- オスタルギー Ostalgie = 東 Ost + ノスタルジー Nostalgie
ドイツの読書文化
- ドイツには「本をプレゼントする文化」が根付いている
- クリスマスプレゼントには比較的ささやかな品を送ることが多い中、本は特別なもの
- オーディオブックが以前から日本よりも普及している
- 綿谷さんは子どものころミヒャエル・エンデ『モモ』をカセットテープで聴いていたとのこと
- オーディオブックには標準ドイツ語を普及させるための発音教材の側面もあった
- 街の本屋が大事にされており、小規模な書店でも著者イベントや朗読会が開かれている。伸井さんはギュンター・グラスに遭遇したとのこと