『英語語源ハンドブック』にこじつけて学ぶドイツ語 #32 half

HEE こと『英語語源ハンドブック』にこじつけてドイツ語の語源その他について書くシリーズ。
第32回は half から。
ゲルマン語に広く対応語が見られ、古英語から使われている。印欧祖語の *(s)kel- (切る)に基づく。
その対応語がドイツ語においては halb 「半分の」である。HEE での英語 half の説明と見比べると、ドイツ語 halb には異なる点が2つある。
ひとつは halb の l が読まれること。HEE では half の l が17世紀ごろに発音されなくなった旨説明されているが、ドイツ語 halb にはこの点ひねりがない。
そしてもうひとつ、HEE は英語 half の複数形が halves という不規則な形になったいきさつについて詳述しているが、ドイツ語 halb はそもそも名詞として用いられないため、複数形についての話題も存在しない。
ではドイツ語 halb の語源についてはどんな話題が出てくるのか。Duden 語源辞典を引くと、次のような説明が目に留まった。
Eine alte Substantivbildung ist das in neuhochdeutscher Zeit durch Hälfte verdrängte Halbe »Hälfte; Seite« (mittelhochdeutsch halbe, althochdeutsch halba, gotisch halba, altenglisch healf, altisländisch halfa), dessen erstarrte Kasusformen seit mittelhochdeutscher Zeit als Adverb und nachgestellte Präposition verwendet wurden und heute noch in -halb, -halben, -halber bewahrt sind, so zum Beispiel deshalb, meinethalben, allenthalben, ehrenhalber.
- erstarren: (石膏などが)固まる、(体が)こわばる。転じて、「化石化する」(※ここでは廃語となることの比喩)
- nachgestellte Präposition: 後置される前置詞(※後置詞 Postposition とはいわないんだろうか)
かつて halb は、語尾 -e をつけて Halbe とすることで名詞として用いることができた。ところが、中高ドイツ語後期(というと14世紀前後?)に当時の低地ドイツ語から helfte という形が入り、高地ドイツ語本来の Halbe を追いやってしまった。そして現在の標準ドイツ語で用いられるのが、低地ドイツ語由来の名詞 die Hälfte 「半分」なのだった。形容詞 halb が単純に名詞化して Hälfte になったわけではなく、実はそれぞれ別の地域からやってきた…というのはよい話題。英語でいうと、北部・東部の発音と西部の綴字が標準になった結果 <u> と書いて /ɪ/ と読まされることになった busy の話にちょっと似ている気がする。
そして高地ドイツ語本来の名詞形 Halbe が痕跡を残しているのが、現代の deshalb 「それゆえ」、meinethalben 「私のために」、 allenthalben 「至る所で」、 ehrenhalber 「名誉のために」などなのだという。よく見かける deshalb などは定冠詞 + 形容詞だと思ってしまうと実は変な並びなわけで、「この halb は実は Halbe という名詞だった」となればその点ずいぶんすっきりする。
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