『英語語源ハンドブック』にこじつけて学ぶドイツ語 #27 call

HEE こと『英語語源ハンドブック』にこじつけてドイツ語の語源その他について書くシリーズ。
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第27回は call から。
古英語期に古ノルド語から借用された kalla (呼ぶ、名づける)に由来すると考えられているが、古英語の本来語 ceallian (叫ぶ)がかかわる部分もあるかもしれない。印欧祖語 *gal- (呼ぶ、叫ぶ)に基づく。
印欧祖語 *gal- にさかのぼるドイツ語単語としては klagen (苦情を言う、嘆く、訴訟を起こす)がある。Duden 語源辞典の説明:
Das seiner Herkunft nach lautnachahmende Verb (mittelhochdeutsch klagen, althochdeutsch klagōn) bedeutete zunächst »vor Trauer oder Schmerz schreien, jammern«. Der rechtliche Sinn des Wortes entwickelte sich schon früh aus dem Brauch, bei der Ertappung eines Verbrechers ein Not- und Hilfegeschrei zu erheben und den Täter vor Gericht mit Geschrei und Gejammer zu beschuldigen.
- lautnachahmend: 擬音の
- die Ertappung: 逮捕
- der Verbrecher: 犯罪者
- das Gejammer: (絶え間ない)嘆き
- beschuldigen: j4 に et2 の罪を問う
印欧祖語 *gal- は叫び声の擬音からきているとする。ドイツ語ではひろく叫び声から「悲嘆や苦痛に叫ぶ、嘆く」という意味の特殊化が起こり、さらには犯罪の被害者が法廷で加害者を糾弾するために叫ぶようすから「訴訟を起こす」の意味が派生した。英語の同根語 call とはかなり意味合いが異なるが、klagen の kl- の部分が call なのだといわれればそんなようにも見えてくる。
いっぽう英語 call と意味が近いドイツ語単語は rufen (呼ぶ、電話をかける)だろう。こちらも Duden 語源辞典を引く。
Das gemeingermanische Verb mittelhochdeutsch ruofen, althochdeutsch (h)ruofan, [...] altenglisch hrōpan, [...] ist wahrscheinlich lautnachahmenden Ursprungs [...].
こちらももともとは擬音語だったのだろうという。Wiktionary は、現代ドイツ語 rufen と同根の古英語 hrōpan が現代英語で roup (叫ぶ、競売する)になったとしている。
いっぽう KDEE こと英語語源辞典は、roup が古英語 hrōpan から直接発達したのでなく、オランダ語ないし古ノルド語での同根語を中英語以前に借用したものだとしている。
この roup という単語はまれなのか、ロングマン現代英英辞典には入っていなかった。Wiktionary によればスコットランド寄りの語彙であるようだ。英辞郎にも「〈スコ〉」というあまり見かけない表記があった。「スコ」ってなんだか情けない語感。
英 call / 独 klagen と英 roup / 独 rufen の両者はそれぞれ別の叫び声を表す擬音語から出発した。そこから叫び声を使っていろいろなことをする意味に分化し、ひいては call と rufen のように同じ意味へ合流するものも現れた。人は声を使っていろいろなことをしてきたようだ。
さて、HEE は最後に「天職」の意味の名詞 calling についても言及している。
14世紀頃から名詞として発達した。[...]「神から(仕えるようにと)呼ばれたという強い感覚を持つこと」を表した。その意味から「神への奉仕」を、さらにはそれに限らず「神に導かれたと感じる職や人生の歩み」を表すようになった。
先ほど英語 call の類義語として挙げたドイツ語 rufen に動詞の意味を強める前綴り be- をつけた berufen には、動詞として「任命する」、また形容詞として「天性の、(能力や資格が)十分な・適任の」といった意味がある。さらに名詞化した der Beruf は一般の「職業」の意味であり、別の形で名詞化した die Berufung は「任命」のほか「召命(つまり HEE のいう「神から(仕えるようにと)呼ばれたという強い感覚を持つこと」)」、さらには「天職」の意味を持つ。
Duden 語源辞典の berufen の項には次のようにある。
Ableitung: Beruf (15. Jahrhundert »Leumund«; die neuhochdeutsche Bedeutung hat M. Luther geprägt, der es in der Bibel zunächst als »Berufung« durch Gott für griechisch klēsis, lateinisch vocatio gebrauchte, dann auch für Stand und Amt des Menschen in der Welt, die schon der Mystiker Meister Eckart als göttlichen Auftrag erkannt hatte. Dieser ethische Zusammenhang von Berufung und Beruf ist bis heute wirksam geblieben, wenn das Wort jetzt auch gewöhnlich nur die bloße Erwerbstätigkeit meint).
- der Leumund: 評判
- die Erwerbstätigkeit: 就労、(有給の)仕事
ドイツ語の名詞 Beruf は15世紀には「評判」の意味だった(「呼び声高い」みたいな発想か)。この Beruf を「召命」の意味で初めて用いたのがかのマルティン・ルター(1483-1546)だった。また、ルターより2世紀前の神秘主義者マイスター・エックハルト(1260?-1328)が、神からの使命と世俗の職業とを結びつける発想をすでに持っていたのだという。
そもそもラテン語 vocātiō 「召命」が vocō 「呼ぶ」からきているわけだから、それぞれ個別に成立したらしい訳語である英語 calling やドイツ語 Berufung に共通の発想がみられることには不思議はない(同根でない点だけ惜しいけれど)。しかしドイツ語がさらに世俗の職業を指す語をも Beruf としてしまった点は、何かしらドイツ的な発想を示唆しているのかもしれない。Duden 語源辞典のいう Dieser ethische Zusammenhang von Berufung und Beruf 「Berufung と Beruf の間にあるその倫理的な関係」ってマックス・ヴェーバー(1864-1920)的な何かなのかしら、しらんけど…。