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勉強したることども

きみもこじつけよう!『英語語源ハンドブック』で英語以外の言語を学ぶ[helwa 英語史コンテンツ 2025]

HEE のテキストを書き写し続けると PC はこうなります。

ここひと月ほど、『『英語語源ハンドブック』にこじつけて学ぶドイツ語』と題したブログ連載をしています。A から順にアルファベットごとに見出し語をひとつ取り上げはそれにこじつけたドイツ語ネタを記事にして、1週目の24回(X と Z は見出し語なし)を先日終えました。

本稿ではなんでそんなことを始めたのか、どんなふうにしているのか、そんなことをして何がおもしろいのかなどをお伝えします。

この記事は『月刊Helvillian 〜ハロー!英語史』第12号特集「helwa 英語史コンテンツ 2025」へ寄稿するものです。

note.com

こじつけのきっかけ

最初に「こじつけ」のアイディアを持ったのは、次の Voicy 配信を聴いたときでした。

ペイウォールの向こう側ではありますが、恐れながら一部引用します(未聴の方はこの機会に800円課金されてはいかが)。チャプター2の19:45あたりから。

例えばまあフランス語・ドイツ語あたりがメインですかね?やられてる専門家とかあるいは学習者も、英語はある程度やられている方が多いと思うので。そっちの観点から見るのには…言及が多いですから!もう「フランス語からの借用語」とか、言及が多いので、そういう観点から親近感わいて…

これをきいてわたしがとっさに思ったのは「ほんまか?」でした。まず、他言語への言及に紙幅を割いては「ハンドブック」と呼べる分量を超えてしまうのでは。それに、多くの英単語の借用元になっているフランス語への言及が自然と多くなるのはまだわかるとしても、でもドイツ語はそうじゃないですよね?

きっとドイツ語への言及はそんなに多くないに違いない。発売後確認して、もし言及が少なかったら「ドイツ語に言及するってこういうことをいうんですよ」と自ら模範を示そう…と、このときひそかに心に誓ったのでした。

そして実際に現物を手に入れて読んでみると、初手から a, an の項にドイツ語を含む他言語の不定冠詞リストがついているなどしたわけですが、まあ「多い」というほとではないですよね、という話をしたのが下記配信です。古英語 niman に言及してドイツ語 nehmen に言及しないだなんて!

そんなわけで上記配信からほどなくして、温めていたアイディアを実行に移し始めたわけです。

How to こじつけ

『英語語源ハンドブック』にこじつけたドイツ語の話はこんなふうにして書いています。

用意するもの

まずは次の2つを用意します。

次のものもあると便利です。

  • KDEE こと英語語源辞典
    • HEE の記述に補足がほしいときに
  • AHDIER こと The American Heritage Dictionary Of Indo-European Roots
    • 印欧祖語までさかのぼれたら、こちらで引き直すことで現代英語に戻れます。同根語が見つけられるかも
  • お好みの生成 AI
    • 主に ChatGPT にアイキャッチ画像を描いてもらっています

手順

まずは HEE の記事を読みます。

読んだら、HEE の見出し語を振り出しに次のようなことを語源辞典等々で調べます。

  • その見出し語のドイツ語での同義語は?その同義語の語源は?その同義語と同語源の英単語は?
  • 見出し語と同語源のドイツ語単語はある?
  • 見出し語自体をドイツ語が借用してない?

Duden 語源辞典を読むときは、まず記事をおもむろに Google 翻訳に投げ込んで大意をつかんでから自分で読み進めています。これができるのが Windows 版のいいところ。でも案外誤訳があって、気が抜けないんですよね。性質上文中に多言語が登場するのが難しいんでしょうか。

各種辞典を読みつつ、基本的には目についたことを目についた順に書いています。記事の読みやすさという点では「調べものを終えてから整理をつけて清書する」ほうがいいんでしょうが、その手間をかけていると連載が続かないと思って。それに、自分の学習の記録という意味では「どのように調べたか」の情報も残しておいたほうがいいかなという気がしています。

最後に、わかったことを何かしら象徴するような画像を生成 AI に描かせて完成です。HEE の次の記事に目を通して、次回どんなことを書こうかぼんやり考えておくのもよいでしょう。

ご利益

やってみると、次のようないいことがありました。

ドイツ語の語源に詳しくなる

これは当たり前といえば当たり前です。毎回英語とドイツ語の語源辞典を引き比べているのだから、知識も増えようというものです。それにしても、ほんの24回やっただけで二重複数や五重語のような著しいネタを見つけられるとは思っていませんでした。

ドイツ語のボキャビルになる

これもまあ当たり前です。HEE の見出し語を軸に同義語や同根語を探していると、こんな言い方があったのかと毎度発見があります。それにドイツ語で書かれた語源辞典を読むので、読解に必要な語彙も増えます。こんなことでもなければ出会わないような低頻度語に遭遇するのもおもしろいところです(実用語学としてはどうかと思いますが…)。

HEE 著者の気持ちがわかる(ような気がする) -- そして四次元空間へ

やってみて気づいたのがこれです。HEE の見出し語にかこつけて対応するドイツ語の語源ネタを繰り返し文章にしていると、「語源のこのあたりに着目するとおもしろい」というのがなんとなく体でわかるような気がしてきました。語源説としてはひとつでも、それを書く切り口には複数の選択肢がありうると気づくようになるわけです。

あるいは、語源の話だけでは間が持たないとき HEE も Duden 語源辞典もよく慣用表現の話をしてるなあ…とか、HEE はわりと印欧語根までさかのぼるけど Duden はまちまちだなあ…とか、流し読みでは気づかなかったかもしれないディテールにも目が向くようになります。ブログ記事を書くことで、間が持たない苦しみ・印欧語根までさかのぼる手間を追体験しているからなのでは、と思っていますがどうでしょうか。

プログラミングの学習で、手本となるソースコードを読んで自分でも同じように打ち込み動かしてみる学習法を俗に「写経」といいます。その効用について、『プログラミングの「写経型学習」における初学者のつまずきの類型化とその考察』と題する短い論文が次のように書いています。

単にそれらの知識、つまり、認知科学で定義されているところの「宣言的知識(Declarative Knowledge)」を記憶することだけが目的であれば、「実際にプログラムを打ち込んで動作を確認させる」必要はないが、プログラミング学習における最も重要な目的が、個々の宣言的知識を記憶することではなく、それらを整理、統合して有機的に結び付け、利用可能な知識として習得することであることを考えれば、「写経型学習過程」が必要であり、重要であることは明らかである。

語源の話に言い換えれば…「この単語の語源はこう」という個々の事実を覚えるには、HEE なり Duden なりを引いて読めば十分。しかし、それら語源やことばの変化に結びつきを見出して英語史・ドイツ語史の流れや言語変化のありさまをつかむには、「こじつけ」が実は効果的だった、となるでしょうか。

HEE の裏表紙には次のようなキャッチコピーが記されています。

見慣れた単語から、英語が四次元的に見えてくる。

その隠されていた四次元目へわれわれをいざなってくれる鍵は「こじつけ」だったのかもしれません…

シーズン1完結記念 全記事セルフレビュー

最後に、ここまでに書いた24記事をふりかえります。

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記念すべき第1回。不定冠詞は不定冠詞、それ以上の話題は出ないだろう…と高をくくっていたのですが、前綴り ein が不定冠詞 ein とは別語源という落とし穴を見つけてしまいます。このころはまだ、書くに値する話題が見つけられてよかった、くらいに思っていたのですが。

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2回目にしてさっそく沼にはまります。生成 AI にまともに質問を投げると話題が発散して手に負えなくなると学びました。生成 AI のこの種の挙動って、まるで人間のオタク語りみたいですよね。こののち、記事執筆の調べものに生成 AI を直接使うことは控えるようになりました。あの子は話が長い。

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ドイツ語の二重複数の例を発掘した回。これはうれしかったですね。英語 cake やドイツ語 Kuchen の語源なんてふつういちいち気にしないと思うんですが、調べてみるものです。

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あまり書くことがなかった回。このように、HEE にこじつけて展開できる話題に乏しいときは、無理せず簡単に済ませてしまおうと常々思っています。ところが実際やってみると、話題のない回は当初の予想以上にまれなのでした。それはつまり、当初の見積もり以上に毎回の執筆作業が重たくてつらいということを意味します。

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あまり書くことがなさそうだな、と思って始めたらそうでもなかった回。英語 each と every の呼び分けがドイツ語にあまりないというのは改めての発見でした。そして、その発見に語源からある程度理屈がつくというのもおもしろいところです。

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下調べの時点で、ドイツ語 Fazit のことは恥ずかしながら「見たことあるけど意味は何だっけ」とうろ覚えの状態でした。語源を調べてしまったいまとなっては、もう一生忘れない気がします。やはり語源知識はボキャビルに有用。

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記事24本の中ではこれがいちばん読まれているもようです。その理由はよくわからないのですが、実際ドイツ語 gammeln の意味変化はかなりおもしろい発見でした。英語でもこういう例はないものか。

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語源それ自体の話題がそんなに膨らまないときは、慣用表現に目をつけるとよいと学んだ回。これ以来、HEE の記事で慣用表現にふれられていると「書くことに困ったのかな」と執筆者の気持ちに思いをはせるようになりました。

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語源の話とは直接関係ない tvk 『キンシオ』に初めて言及した回。そんなことをするのはこの回限りだ思っていたら、あとでもう1回出てきたのでした。ドイツコーヒー夢、行ってみたいんですよね。

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記事中でもふれましたがドイツ語史は「ドイツ語の歴史」でなく「ドイツ語と歴史」だと悟った回。服飾の歴史に詳しい方がいらっしゃったら、ぜひご意見をいただきたいところです。

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とりあえず何も考えずに英単語を独和辞典で引いてみる技を身につけた回。ドイツ語から英語への借用を見つけるのもうれしいものです。

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Tagesschau の件はいかにも前から知っていたかのように書いていますが、この記事のための調べもので初めて知ったネタです。そういえば記事中では触れませんでしたが、ドイツ語 kneten 「こねる」は好きなドイツ語単語のひとつです。英語 knead と違って /k/ の発音が残っているので、「くねーてん」といかにも何かこねていそうな音になるところがキュートです。

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これはもうわたしにとっての「冬のリヴィエラ」です(HEE の river の項を参照のこと)。AI に書けない記事が書けた、と自足しています。学生時代の宿題を返せました。

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英語だと denominator といかめしい単語が、ドイツ語になると Nenner のように明快でひねりのない単語になるの、いいですよね。ドイツ哲学にもあるような気がします。日本語の用語はいかにも難しげなのに、原語にあたると拍子抜けするくらい日常語みたいな。

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この記事を書いて以来、ドイツ語の前置詞 von のことが気になっています。前置詞 von が ab を置き換えたとの話でしたが、それ以外でも von って別表現の置き換えによく出てきますよね。伝統的には2格をとるところを von + 3格にするとか、lassen の動作主は通常4格なのが場合により von + 3格で代用されるとか。何かの置き換えでない、von 本来の機能ってなんなんでしょうね?

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side の回で書くことは残っているだろうか、と心配しています。

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思い立ってこの回から、生成 AI でつくったアイキャッチ画像をつけるようになりました。記事一覧の視認性を上げておくと、管理上も楽なんですよね。Duden 語源辞典が印欧祖語の情報をたくさんくれるのもうれしい回でした(いつもそうならいいのに)。

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アイキャッチ画像を AI に書かせるプロンプトにさっそく手間をかけ始めた回。線の少ないキャラ絵はわりとすんなり書けても、人間の絵はなかなか注文どおりいかないようです。また、Duden もそうでしたがドイツ語学習者としても Nationalsozialismus にはぜひふれておきたかった。

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英語 sad とドイツ語 satt が同根であることは以前から覚えていたので、ネタに出すのを楽しみにしていた回。アイキャッチのテーマもきれいに決まりましたが、テーブルのうえがやや汚らしいのは最後まで直してもらえなかった。

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ドイツ語の五重語の例を見つけた回。 "cake" で見つけた二重複数にならんでうれしい発見でした。ちなみにアイキャッチ右下の銘板には、ChatGPT の提案で "CIBUM PONAM" 「わたしは食べ物を置くだろう」と記されています。ラテン語の接続法現在能動相1人称単数。

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意味の一般化・特殊化の妙を味わった回。また tvk 『キンシオ』にふたたび言及した回。ちなみにこの回から、アイキャッチ画像生成のため ChatGPT に課金しています。

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これも jacket に並んで文化史回。そして name の回でふれた denominator - Nenner とは逆に、英語ではなんでもない語がドイツ語では低頻度語になっているパターンでもあります。こんなことがなければ「ヴァリエテ」のことは終生知らないままだったかもしれない。行ってみたいなあヴァリエテ。

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語義と綴字からは近い関係にあるように見えて、語源をたどれば赤の他人でもありつつ、でも他人にしては発想にどこか相通じるところがあるという、不思議なペアでした。こういう例を見つけるのもうれしい。

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この回も Duden 語源辞典が印欧祖語について多くを語ってくれた回。いつもそうであってくれ。

追記

2025年9月28日、ここに書いた内容について堀田隆一先生と話した番組が Voicy にて配信されました。